プロフェッショナルに聴く「居心地のよさ」ってなに!

プロフェッショナルに聴く
「居心地のよさ」ってなに!?

居心地のよさはどこから来るんだろう?
プロジェクトメンバーから、人に寄り添う福祉の第一線で働く齋藤さんと嶋田さん、そして学生の細井さんが居心地のよさを空間づくりの観点から捉え、深めるため建築家の野村正樹さんを取材しました!

時を経るほど美しくなる、
「日常」の居心地

── 野村さんが建築を設計される際に大切にしていることを教えて下さい。
野村 私たちは建物や形のあるものをつくっていますが、実はその裏にある無形の物をつくっています。それは、人々の幸せな人生や、お店の繁盛です。形を通じて、形のないものをつくっている。そのため、お客様が何を実現したいか、何を大事に思われているか、つまり「形のない部分をどう考えているか」をまずお聴きします。

── 形のあるものをつくる上で、形のない目に見えない部分を具体化し、設計されているのですね。
野村 それから、建物は、そこに関わるたくさんの人をまとめる「器」なので、そこに関わる人々の関係性や考え方も知ろうと心がけます。あとは長年使うほどに味が出るとか、愛されるとか、そういうことも理解していただくために、お客様と想いを共有しながら進めていきます。

── 時間が経てば経つほどに愛着が湧く空間になり、自分が一番落ち着く場所となっていくことはとても素敵です。

居心地の正体とは?

── 野村さんが建築家として考えておられる「居心地」って何でしょう?
野村 犬や猫は、日当たりのいいところに自分から行ってゆっくりしています。私たち人間も基本的には動物で、自分にとって心地いいところを本能的に、知らず、知らず選んでいるのではないでしょうか。心地よい風が流れてひんやりとしている、手に触れた素材のぬくもりを感じる、自然を感じるということ。そういう感性や感覚、自覚はしていないけどなんとなく感じるものが、居心地のよさなのではと思います。

── 日常(住宅)と非日常(店舗やホテル)をつくるときに心掛けていることを教えてください。
野村 日常は「飽きがこなくて、長持ちするような、自分が居続けられる空間」、非日常は「居心地もいいけど、何回も行きたくなって、楽しくなる空間」。家の場合は、長年使い続けられることが大切です。変わったことをやると飽きたり、時代の流れに左右されたりします。土壁などは年月を経るほど味が増して趣が出てくるので、経年が進むにしたがって美しくなる。そんな素材を使うように心がけています。

非日常は、「見たことない」「記憶に残る」などを意識しますが、斬新なオブジェやディスプレイがあっても、何となく居心地がいいとか、また行きたくなるような空間であることが重要だと思います。

京都のブランド力を活かした空間づくり

── 「京都らしさ」をどう捉えていますか?
野村 京都の茶室や和室って、どこか神秘的でミステリアスですよね。長い歴史の中で培われた美しさや考え方、感性があると考えています。一方、モデルハウスの和室などは何だか明るくて、和風の良さが感じられない。わびさびというか、陰のある洗練された空間が京都ならではの和の美しさでは。それが居心地の良さとか落ち着きとか、佇まいに繋がるのかもしれないですね。

── 「京都らしさ」ってやっぱり「和」なんでしょうか?
野村 京町家を再生した高齢者施設を作った時に、「普通の施設よりも子供の時のことを思い出してくつろげる」と。お年寄りはもともとそういう家で育っておられますから。全国どこでも通用する建物もありますが、その土地に立っているからこそ値打ちがある建物で地域性を感じたいと僕は思いますし、京都にはブランド力がありますから、「和」で京都らしさを演出するのもありではないでしょうか。

─── 私たちが働く福祉施設でもご利用者が何を大切にしているのか、どのように他の人や施設職員と関わりたいのか、それぞれの“その人らしさ”を大切に、日々関わっています。今回の取材を通して空間づくりの観点からも、こうした想いを深めることができました!


Interviewメンバー
左から、嶋田啓介(社会福祉法人同和園)、細井実奈(佛教大学)、野村代表、齋藤乃里子(社会福祉法人レモングラス)

プロフィール
野村 正樹(のむら まさき)
一級建築士、株式会社ローバー都市建築事務所 代表取締役。同志社大学法学部を卒業後、京都工芸繊維大学造形工学科へ編入学。後に、京都工芸繊維大学大学院建築設計学 博士前期課程修了。株式会社NEO建築事務所を経て、2000年に株式会社ローバー都市建築事務所を設立。
京都という土地柄に寄り添い第一線で空間づくりに取組み、福祉事務所の空間づくりにも携わる。

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